namamugichanのブログ

どうも生麦です。気になった小説についてとりあげます。おすすめあったら教えてください。

ねむりウサギ 星新一

「ねむりウサギ」は、古典的な昔話「ウサギとカメ」を星新一流のアレンジで書き上げた作品です。原作から引き出される教訓とは、異なる教訓が得られるものに仕上がっていて作者のオリジナリティを感じます。話の筋はカメとの競争で負けたウサギはプライドが高く、のろまなカメに負けたことに納得行かない。再戦、再再戦、再再再戦、‥‥と挑み続けるのですがカメに勝てないというものです。

ウサギはカメの前に立ち、興奮のふるえ声で言った。

「侮辱されて黙っているわけにはいかぬ。競争だ。どちらが早いか、正々堂々と勝負しよう」

きっかけは些細なことですが、カメとの競争にはウサギは全く勝てません。なんども挑みますが勝てません。ウサギがカメ相手だからと、油断しているわけではなく。むしろ勝つためにウサギは、努力します。勝てない原因をいろいろ考え対策を講じるのです。しかしその努力はことごとく裏目に出てしまいます。

 

最終的にウサギは神に祈るまでになります。

祈りが終ると、すがすがしかった。さまざまな雑念はすべて消え、からだは今までになく快調。今日こそは必ず勝てる、勝つのは、今日以外ありえないとの予感がした。

しかしこの競争の途中でウサギは、倒れ二度と目覚めぬ眠りにつきます。この競争の後メディアがこの競争を取りあげます。ここで組まれた大特集の主役は、負けたウサギで、勝ったカメではありません。

 

この作品は、一見するとひねくれていてわかりにくいですが壁を越えるための努力がテーマとなっているように思います。ウサギの努力する姿にこころを打たれる読者も多いと考えメディアは、ウサギの大特集を組んだのでしょう。ただしこの作品では、ウサギの努力が実を結ぶことはついに有りませんでした。ここは他の努力を讃える作品と異なり、シニカルな要素を感じます。努力は実らないこともあるが私達にとって重要なテーマであるはずです。ウサギのように死ぬまで努力する姿に自分を重ねられたらひょっとすると幸せなのかもしれません。

 

「ねむりウサギ」は文庫本「マイ国家」の31編の一つとして収録されています。

マイ国家 (新潮文庫)

マイ国家 (新潮文庫)