namamugichanのブログ

どうも生麦です。気になった小説についてとりあげます。おすすめあったら教えてください。

花房観音 「桜の里」

「見せてやれよ、東京中の男に。たくさんの男を落としてきた穴を」

主人公の鈴香は、男に愛を売る娼婦です。小説は短い四十ページほどですが、鈴香の人生の幼いころから四十代までの長いスパンが語られます。愛という虚構を巧みにうみだし、引き換えに金銭を得ることは決して褒められることではありません。なぜ彼女はそのようなことを生業とするようになったのか。愛とセックスは翻弄されているのは彼女だけではないはずです。程度の差こそあれ多くの人が経験することを下地にして、嘘をつき、男を誘惑し、金銭を搾取し、しだいに男を絶頂のまま殺すようにまでなる鬼が生まれる様は身近に潜む落とし穴を意識させられるようで、身震いするものです。この物語が単なるフィクションとして考えられないのは、実際にこのような人物像が時折ニュースとして世間を騒がせるからでしょう。物語終盤、彼女が生活を共にする男がでてきます。なぜふたりは、飽きるほどしてきたはずのセックスに再び夢中になったのでしょうか。身体の相性とは不思議なものです。私たちの心は身体に従わされているのかもしれません。

どんなに乱暴で力がある男でも、ここだけは女が意のままにできるのです。(中略)男がこのような自分の意にならない醜い棒を持つ限りは、男は女に勝つことなんて、できません。

 

ゆびさきたどり (新潮文庫)

ゆびさきたどり (新潮文庫)